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六命の日記とかを置いていく気がするます。
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私には幼馴染がいる。
 名前はアルフレッド。長くて呼びにくいからアルフって呼んでいる。
 男の子なのに甘えん坊で、金髪の横から狼の耳が覗いていて、尻尾なんか感情に合わせてふらふら揺れる。
 全然かっこ良くないし、はっきり言って頼りないことこの上ないんだけど、私は実はこの子が苦手だ。
 だって、なんだか妙なところで鋭いんだもの。



 セルフォリーフについて、案内人のマイスさんにまず聞かされたのは、この世界での生活の仕方だった。
 なんでも、この世界では依頼をこなすことで報酬を得ることができるらしい。
 それは、例えば盗賊の退治だったり、例えば凶暴化した動物の駆除だったり。
 救難要請に応えてやってきた人々は、そうやって依頼をこなすことで世界の役に立ち、報酬を得て生活をする。
 うん、すごくよくわかるシステムだと思う。でも、つまりそれって私も、例えば怪物や盗賊なんかを、剣や魔法でやっつけなきゃだめってことなんだよね。
 説明を続けるマイスさんの言葉を、私の隣でアルフがうんうんと頷きながら聞いている。
 その姿は至って真剣そのもの。アルフって、おじさんもおばさんも冒険者だったから、冒険っぽい言葉に弱いんだよね。依頼とか報酬とか。
 私なんか、マイスさんの説明を聞きながらも、戦わなきゃいけないんだ、とか、ちゃんと習った魔法使えるかな、とか、マイスさんの声はどこからでてるのかな、とかそんなことを考えてる。それに比べれば、アルフは偉い。
 なんだろう。温度差があるのは、わたしだけなのかな。
 躍動の世界セルフォリーフ。いろんな動植物がむくむくと動き出して、他の世界に救難要請を出さなければならないところまで追い詰められた世界。
 それなのに、この世界はぱっと見る限りでは平和そのもので、私はなんだか実感がわかない。
 空だって青いし、鳥も飛んでいるし、うん。私の心は、なんだかふわふわと旅行でもしているような気持ちでいっぱいになっている。
 「ニーネ、ちゃんと聞いてる?」
 突然の声に顔を向けると、アルフがちょっとむっとした顔でこっちをみていた。
 大丈夫、聞いてるよって笑いかけて、誤魔化す。
 たぶん、彼はちゃんと気づいてる。私の気持ちがふわふわ浮いていることに、きっと気づいてる。
 だって、アルフって、妙なところで鋭いんだもの。あの時だって……

 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 世界間ゲートを渡るために、1年半もがんばってお小遣いを貯めた。
 いろんな人のお手伝いをしたりして、おじさんおばさんに内緒で貰ったお金もある。
 そうやって計画的にこつこつ貯めたお金で、私はセルフォリーフ行きのゲートのチケットを手に入れた。
 今思えば、結構無茶なこともやってたかなって思うけど、うん。しかたないよね。
 それで、決行の朝のこと。
 私は頑張って手に入れたチケットを握り締めて、おじさんたちにも内緒で、誰にもばれないようにこっそり家をでてゲートへと続く一本道を急いでいた。
 村の象徴とも言える背の高い杉の木が三本生えている、うねうねと長い煉瓦の道。昼間はいろんな人がここを通るけど、そのときはまだ暗かったし人の気配はないって思った。
 そう。人の気配はないって思ってた。結論から言うと、これがダメだったんだと思う。

 「ニーネ、どこいくの?」

 聞きなれた声が後ろから響いた瞬間の私の表情ったら、多分すごくみっともなかったんじゃないかな。
 振り返ると見知った顔、うん。アルフがいたんだ。
 私はあのとき、この道の近くにアルフの家があることをうっかり考えていなかった。今思うと私はなんて安易な失敗をしてしまったのだろうと思う。
 ちょっと時間がかかっても遠回りする道を行くのが正解だったんだろうなぁ。とにかく、私は軽く取り乱して、とっさに言い訳を考えて、喋った。
 「う、うん、おはようアルフ。ええとね、ちょっと隣街まで買い物に……」
 表情の動きがちょっとぎこちなかったと思う。なんとか、なんとかしないと……ってそのときは必死だったんだ。
 なのに、私が必死に考えて口を動かしてるのに、アルフはそれを聞いてもいないような表情で、
 
 「セルフォリーフにいくんだよね?」
 
 って、こう言い放ったんだっけ。
 ……あの言葉には、びっくりしたなぁ。
 うん、もうだめ。ばれてる。行き先までばれてる。だめだ、失敗って思った。
 なんでばれたんだろうって勿論思ったし、それが表情に出てたんだと思う。
 「だってニーネ、ずっとお金貯めてたでしょ。それに、この前図書館でセルフォリーフの地図みてたし」
 って、そのくらい誰だってわかるよとでも言いたげな、きょとんとした顔で答えられてしまった。
 なんかね、それで、やっぱり私はこの子が苦手だって再確認したんだよね。いつもはにぶちんなのに、なんでこういうときだけ鋭いんだろうって、うん。
 それはともかく、あの時の私、本当にみっともなかったなぁ。 ああ、もう、時間を巻き戻して安易な行動をした私を叱ってやりたい。
 ぐるぐる回る頭の中で、いろんなことを考えてた。
 どうしよう。頑張って走って振り切ろうか、とか。ううんだめだ、足だってアルフのほうが早いし体力だってかなわない、とか。
 なんとかして誤魔化して、うう……なんて、ね。なんていうか、混乱してたんだと思う。
 で、そんなことを考えながら、なんとかしようなんとかしようって思っていたら、突然アルフが予想外のことを言い放ったんだよね。
 
「うん、だから、それをお父さんに相談したら、ニーネについて行ってあげなさいって」

 もちろん、びっくりした。

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 男の子って、卑怯だよね。
 私が頑張ってお金をためて、考えて考えてこっそり実行したことを、あんなに簡単に、正直に話して実行しちゃうなんて思わなかった。
 でも、うん。
 今は、まぁ、いいかなって思う。
 なんとなく、マイスさんの説明を真剣に聞いているこの横顔をみていると、アルフも少しはかっこいいところがあるのかなって、そう思えた気がする。
 アルフがまた、こっちをみている。
 せっかくなのでもう一回、今度はもう少し明るい顔で、微笑んでみた。 
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