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私の世界では、学校で魔術を習うのは当然のことだった。
勿論、戦うために学ぶわけじゃない。人を傷つけるために学んだりはしない。
風を操ったり、火を操ったり、水を操ったりして、日々の生活をほんの少し楽にするために私たちは術を学ぶって、皆知っていた。
人を傷つける魔法が無かったかというと嘘になるけれど、それはあくまで、そういう風に使えば、そうなるってことを教えるためのものだった。
わかってたんだ。
魔法はその意思を持って行使すれば、簡単に人を傷つけられるって。
だけど、私はそのとき、アップルさん達を人だとは、決して思ってはいなかった。
人々の前に立ちはだかる、悪い林檎のモンスター、そう、なにも考えず決め付けていた。
だから、悪いモンスターをやっつけるためなら、この力を力として行使しても問題ないって、そう、思っていた。
……そう、それが歪んだ私の認識だってことに、私は気づいてはいなかったんだ。
だから。
私の読み上げた術が、魔力が、アップルさんの身体を貫いたとき。
アップルさんが私の目をみながら、ゆっくりと崩れ落ちていったとき。
その崩れゆく瞳の奥に、哀愁の色を湛えた感情をみつけ、
それが私たちとなにも変わらない『こころ』の片鱗だと気づいたとき……
……私は、私が為したことの結果を、その姿を、直視することができなかった。
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「マ、マイスさん、あの、大丈夫だったんですよね?討伐して……」
私の口から、自然とそんな言葉が漏れる。
目の前には崩れ落ちた林檎が転がっている。
動かなくなった林檎。さっきまで動いていた林檎。
彼らと最初に出会ったとき、私は目の前の状況を、とても簡単に考えていた。
お店に並べられるはずの林檎が動き出して、暴れている。
悪い林檎だ。やっつけなければいけない。そう当然のように考え、感じていた。
だけど、今は違う。
私は気づいてしまった。
アップルさんは、多分、食べられたくなかったんだと思う。
気づいてしまったら、思考がとまらなくなった。
アップルさん。
意思を持ち、動き出した林檎。
自分で考え、自分の足で歩くようになった林檎。
ねぇ、それっていけないことなの?
私の心に、なんだか釈然としない思いが黒い染みのように広がっていた。
私達は彼らの意思を、力で捻じ曲げたんだよね?
でも、彼らが動き出したことで困ってしまった人もいたんだよね?
彼らは暴れて、誰かを困らせていたんだよね?
……ねぇ、本当に、これは正しいことだったの?
私の中で、沢山の感情が交錯しているのがわかる。
今思えば、冒険って言葉に私自身も浮かれていたんだと思う。
アルフは冒険が好きだ。おじさんもおばさんも冒険者だから、冒険がどういうものなのか知っているし、そのための覚悟もある。
アルフは戦い方を知っている。狩りのやり方を知っている。獲物に止めを刺すときの、心の中での祈り方を知っている。
アルフにできることは、きっと私にだってできるって勝手に思ってた。
かっこいい英雄が、悪い化け物を剣と魔法と勇気で退治して世界を救う物語。
私もその物語に一歩を踏み出したんだって、そう、勝手に思っていた。
けれど。
けれど実際に私がしたことは、生きたいと思う人に対して、力をぶつけてその権利を奪うことだった。
アップルさんは、悪い化け物なんて都合のいい存在なんかじゃ、決してなかったんだよね。
……そう、私はそのとき初めて理解したんだ。
私は誰かと戦う覚悟もなしに舞台に足を踏み出したんだ、って。
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